AI TRiSMとは|AI時代を生き抜くために必要な理由と導入のポイント

「AI TRiSM(エーアイトリズム)という言葉を最近聞くけど、一体何のこと?」
「AIをビジネスで安全に活用するには、どのような対策が必要?」

AI技術は多くの業界で導入が進み、いまやビジネスに欠かせない存在となりつつあります。しかしその一方で、AIの判断ミスや情報漏洩といったリスクも指摘されるようになりました。

AIがもたらすリスクを適切に管理できなければ、企業の社会的信頼を損ない、事業に大きな損害を与えかねません。そこで注目されているのが、AIに関連するリスクの特定と軽減を目的とする枠組み「AI TRiSM」です。

本記事では、AI TRiSMについて以下の内容を解説します。

  • AI TRiSMの概要と重要性
  • AI TRiSMを構成する4つの要素
  • AI TRiSMで管理できる具体的なリスク
  • 導入時に押さえるべき5つのポイント
  • 導入した企業の成功事例

この記事を最後まで読めば、AI TRiSMの全体像と企業が取るべき実践的な対策が理解できるでしょう。AIの導入を検討している企業の方や、AIのリスク管理について詳しく知りたい方は、ぜひご一読ください。

AI TRiSM(エーアイトリズム)とは

AI TRiSM(Artificial Intelligence Trust, Risk, and Security Management)は、AIの利用に伴うリスクや課題に目を向け、信頼できるAIシステム(業務プロセス、組織を含む)を構築するための枠組みです。米国の調査会社であるGartner社が提唱した概念であり、欧米を中心に注目が高まっています。

AI TRiSMは単なるセキュリティ対策にとどまらず、倫理性や透明性、そして組織としての管理体制までを包括的にカバーする枠組みです。信頼できるAIを社会に根付かせるための基盤であり、今後のAI活用において欠かせない取り組みといえるでしょう。

企業はAI TRiSMを取り入れるべき?

近年、ビジネスにおけるAIの活用は急速に広がり、企業の競争力を左右する重要な要素となっています。しかし、その利便性の裏には、情報漏洩やプライバシー侵害といった、見過ごすことのできないリスクも潜んでいるのが現状です。企業がAIの恩恵を安全に受け続けるためには、リスクを適切に管理する仕組みが欠かせません。

ここでは、AIを取り巻く近年の動向と問題点を整理し、その解決策としてAI TRiSMがなぜ重要なのかを解説します。

近年のAIの動向と問題点

近年、AI技術は業界を問わず広く浸透し、テキストや画像の生成など、さまざまな場面で実用化が進んでいます。私たちの社会にとって、AIはいまや不可欠な技術となりつつあるのが現状です。その一方で、AIの判断が必ずしも正しいとは限らず、信頼性や公平性に疑問が残るケースも出てきました。

加えて、生成AIが学習に用いるデータの扱い方も問題視されています。個人情報の取り扱いをめぐるプライバシー侵害や、情報流出といったセキュリティ上の問題が深刻化しています。

問題解決に役立つAI TRiSM

進化を続けるAIをビジネスで活用していくうえで、そのリスクをいかに管理し、AIと共存していくかが課題となっています。こうした背景から、AIの信頼性を確保するための枠組みであるAI TRiSMの重要性が増しているのです。

AI TRiSMの目的は、企業がAIを「安全かつ信頼できる形」で活用できるようにすることです。AIの判断に透明性を持たせ、不当なバイアスや誤作動によるリスクを防ぐと同時に、セキュリティやプライバシーを守る仕組みを整えることが求められます。

さらに、AI TRiSMは単なる技術的な対応にとどまらず、経営戦略の一部として取り入れる必要があります。全社的な視点でAI活用を進める体制を整えることで、AIがもたらす価値を最大限に引き出せるでしょう。

AI TRiSMを構成する4つの要素

AI TRiSMは、AIを安全かつ信頼できる形で活用するために、4つの要素で成り立っています。それぞれの要素は独立しているように見えても相互に関連しており、総合的に取り組むことで十分な効果を発揮します。

  • 説明可能性
    AIがどのような過程を経て結論を導き出したのかを、人間が理解できるようにすること。AIの判断根拠が明確になることで、利用者はその結果に対して納得感を得やすくなる。
  • ModelOps(モデルオプス)
    AIの開発から運用、改善までの一連の流れを効率的に管理する仕組み。市場の変化にいち早く対応できるようになる。
  • AIアプリケーションのセキュリティ
    AIを活用したシステム自体や、AIで取り扱う膨大なデータをサイバー攻撃から守るための対策。適切なセキュリティ対策を講じることで、AIの信頼性が強化される。
  • プライバシー
    AIが扱う個人情報や企業の機密データを適切に保護するための方針と技術を指す。個人の権利を守り、社会的な信用を維持するために不可欠な要素。

AI TRiSMで管理するべき3つのリスク

ここでは、AI TRiSMによって管理するべき代表的なリスクはを3つ取り上げます。

  • サイバー攻撃
  • プライバシー侵害
  • 社会的混乱

AI TRiSMを導入すると、企業がAI運用において直面するさまざまなリスクを効果的に管理し、予防できるようになります。

サイバー攻撃

サイバー攻撃を受けると、企業が保有する重要なデータが紛失したり、盗用されたりするおそれがあります。また、不正アクセスによりAIが出力するデータや結果が改ざんされ、誤った情報が流通するリスクも無視できません。

被害を防ぐためには、セキュリティ管理を徹底し、安全にデータが利用されているかを常に監視する体制が必要です。AI TRiSMを活用すれば、AIシステムに潜むリスクを事前に特定し、セキュリティ事故や不正行為を未然に防ぎやすくなります。

プライバシー侵害

AIは大量のデータを収集・解析しますが、その過程で個人情報などを扱う際には細心の注意が求められます。もしデータの収集にあたって提供者の承諾を適切に得ていなかった場合、著作権やプライバシーの侵害といった法的な問題に発展しかねません。

また、収集したデータをもとに行う分析や推測は、必ずしも正確とは限りません。万が一、個人や企業に対して誤った評価がなされると、不当な情報が拡散されてしまう危険性があります。

AI TRiSMは、システムの開発段階からプライバシー保護を設計に組み込むのが特徴です。AIを適正かつ安心して活用できる環境を実現でき、情報漏洩や不正利用を未然に防ぎやすくなります。

社会的混乱

AIはビジネスの現場で幅広く活用されていますが、もし不具合が生じた場合、その影響が広範囲に及ぶおそれがあります。たとえば、社会インフラを担うAIシステムが障害を起こすと、深刻な混乱を招く可能性があります。

大規模な社会的リスクを回避するには、AI TRiSMの実践が重要です。AI TRiSMでは、AIの開発から運用・監視・管理に至るまでの全プロセスを効率的に実行する仕組みが整備されています。体系的なアプローチにより、AIの精度や信頼性が向上し、社会的混乱のリスクを低減させられます。

AI TRiSMを導入する際に押さえるべき5つのポイント

AI TRiSMを自社の戦略に組み込むためには、計画的かつ体系的なアプローチが不可欠です。導入を成功させるために、以下の5つのポイントを押さえておきましょう。

  1. 専門チームを設置する
  2. 想定されるリスクを洗い出す
  3. データ管理を適切に行う
  4. AIの判断根拠を理解する
  5. 監視・フィードバック体制を整える

1.専門チームを設置する

AI TRiSMを適切に導入・運用していくには、専門的な知識を持つ人材で構成されたチームの存在が欠かせません。具体的には、以下の専門スキルを持つ人材が必要になります。

  • AIの透明性・公平性を評価するデータサイエンティスト
  • セキュリティリスクを見極めて対策を講じるセキュリティエンジニア
  • プライバシー保護や法規制への理解があるコンプライアンス担当者

しかし、AIに関する高度なスキルを持つ人材は社会全体で不足しており、自社だけでチームを編成するのは困難です。そのため、自社で十分な体制を整えられない場合には、外部のベンダーに協力を依頼するのが有効です。AIセキュリティ診断や運用サポートを提供している企業と連携すれば、組織の負担を抑えつつ、効率的にAI TRiSMを導入・展開できる体制を整えられます。

2.想定されるリスクを洗い出す

AI TRiSMを効果的に導入するには、まず自社のAI活用にどのようなリスクが潜んでいるのかを明確にすることが重要です。現在直面しているリスクだけでなく、将来的に発生する可能性のある問題まで視野に入れて整理する必要があります。

たとえば、顧客情報を取り扱う場合、個人情報の漏洩が大きな懸念点です。情報管理の強化や不正アクセスを防ぐ仕組みづくりなど、具体的な対策の計画・実行が求められます。

リスクを洗い出す際には、発生源や影響が及ぶ範囲、想定される対策を体系的に整理しておきましょう。特に、システム自体に潜むセキュリティ上のリスクを発見するなら、脆弱性診断の実施が有効です。AIシステムの開発や運用に伴うリスクを事前に把握しておくと、AI TRiSMをより効果的に進められます。

脆弱性診断の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。

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3.データ管理を適切に行う

生成AIの精度は、学習に用いるデータの質によって大きく左右されます。そのため、生成AIが扱う膨大なデータを適切に管理する体制が必要です。具体的には、質の高いデータを収集してタグ付けを行う、常にデータを最新の状態に保つといった作業が求められます。

データの品質を高めるための取り組みも重要です。例えば、不正確な情報や欠けているデータを取り除いたり、性別や人種といった特定の属性に情報が偏っていないかを検証したりする必要があります。データの偏りは生成AIの判断にバイアスを生む原因となるため、公平性を保つうえでも不可欠な工程です。

さらに、データの漏洩や改ざんを防ぐセキュリティ対策も徹底しなければなりません。データを暗号化して保護する、アクセスできる人員を制限する、ネットワークを常時監視するといった対策を講じることで、データの安全性を確保します。

4.AIの判断根拠を理解する

AIが導き出した結論や予測に対して、その理由や過程を人間が理解できる状態にしておくことも大切です。AIの判断プロセスを明確に説明できる仕組みを構築すれば、システムの透明性が高まり、ユーザーからの信頼獲得につながるでしょう。

説明可能性は、開発者側にとっても大きな利点をもたらします。万が一、AIが予期せぬ判断を下した場合でも、その原因究明が容易になるためです。誤りを迅速に検出し、改善していく作業がスムーズに進むため、AIシステムの品質を継続的に向上させるうえでも役立ちます。

5.監視・フィードバック体制を整える

AIシステムは、運用を続ける中で新たなセキュリティ上の脅威にさらされる可能性があります。そのため、稼働中のAIを常に監視し、パフォーマンスやセキュリティに異常がないかリアルタイムで確認する体制が不可欠です。

リアルタイム監視の最大の利点は、問題の早期発見にあります。AIの挙動に普段と違う兆候が見られた際は、被害が深刻化する前に迅速な対策を立てられます。ビジネスへの影響を最小限に食い止め、AIシステムを安定して稼働させ続けるために、継続的な監視は欠かせない取り組みです。

AI TRiSMを導入した企業の成功事例

AI TRiSMは、すでにさまざまな業界で導入が進み、具体的な成果を上げています。

ある大手銀行では、AIを活用した融資審査において透明性や公平性に対する懸念が課題となっていました。そこでAI TRiSMを導入し、AIがどのような基準で判断を下したのかを説明できる仕組みを整備。その結果、審査プロセスの透明性が大幅に高まり、顧客に対してより明確な説明責任を果たせるようになりました。

また、大手電気通信事業者は、顧客データのプライバシー保護を強化する目的でAI TRiSMを活用しています。データの収集・処理・保管の各段階で厳格なプライバシーポリシーを適用し、徹底した管理を行いました。顧客との信頼関係が強化され、安心してサービスを利用できる体制を確立しています。

まとめ|AI TRiSMを取り入れて信頼性を確保しよう

AI TRiSMは、AI活用における信頼性・リスク・セキュリティ・ガバナンスを包括的に管理する枠組みです。AIのビジネス利用が当たり前になる中で、企業がその恩恵を最大限に受け、社会的な信用を維持するためには、AI TRiSMの考え方が欠かせなくなっています。

AI TRiSMを導入する際は、以下の5つのポイントを押さえましょう。

  • 専門チームを設置する
  • 想定されるリスクを洗い出す
  • データ管理を適切に行う
  • AIの判断根拠を理解する
  • 監視・フィードバック体制を整える

上記を実践することで、AIの信頼性を高め、企業の成長につながる持続的なAI活用が可能になります。
加えて、AIシステムの基盤となるWebアプリケーションのリスクを洗い出すことも大切です。AI技術を活用した高精度な脆弱性診断ツール「AeyeScan」は、複雑化するAIアプリケーションに潜む脆弱性を効率的に発見できます。AI TRiSMの実践に向けてセキュリティ対策を強化したい方は、ぜひ一度AeyeScanの資料をダウンロードしてみてください。

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エーアイスキャン編集部

エーアイスキャン編集部

クラウド型Webアプリケーション診断ツールAeyeScanなどを提供している、株式会社エーアイセキュリティラボのオウンドメディアを運営しています。セキュリティや脆弱性に関する情報について、わかりやすさと正確さをモットーに発信していきます!

FAQ

  • AI TRiSMとは何ですか?

    AI TRiSMとは、AI活用に伴うリスクを管理し、安全で信頼性の高いAI運用を実現するための枠組みです。米国の調査会社Gartner社が提唱した概念であり、AIの判断に潜む偏りや誤作動、サイバー攻撃による情報漏洩といった課題に対応し、AIを安全かつ倫理的に活用することを目的としています。

    詳しい内容は「AI TRiSM(エーアイトリズム)とは」をご覧ください。

  • AI TRiSMを導入すると、どんなリスクを防げる?

    AI TRiSMを導入すると、AI活用に伴うさまざまなリスクを体系的に管理できます。たとえば、サイバー攻撃のリスクを事前に特定し、情報漏洩やデータ改ざんを防ぐ対策を講じることが可能です。

    また、AIが扱う個人情報の不適切な利用によるプライバシー侵害防止にも役立ちます。さらに、AIの誤作動が引き起こす社会的な混乱といった事業継続に関わるリスクも低減できます。

    詳しい内容は「AI TRiSMで管理するべき3つのリスク」をご覧ください。

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