「経済安全保障とはどんな意味なの?」
「経済安全保障推進法では、企業にどのような対応が求められるの?」
ニュースなどで「経済安全保障」という言葉を耳にする機会が増えました。これは、国の安全を軍事力だけでなく、経済的な手段で守ろうとする考え方です。国際情勢が変化する現代において、物資の安定供給やサイバー攻撃への対策は、企業にとっても無視できない重要な課題です。
経済安全保障への対応は事業の継続性にも関わるため、すべてのビジネスパーソンが正しく理解しておく必要があります。
本記事では、経済安全保障について以下の内容を解説します。
- 経済安全保障の基本的な意味
- 経済安全保障推進法の4つの柱
- 企業への影響と対応ポイント
- サイバーセキュリティとの関係性
本記事を読むことで、経済安全保障の全体像を理解し、自社でどのような備えが必要になるかがわかるでしょう。経済安全保障への理解を深めたい方は、ぜひご一読ください。

経済安全保障とは?
経済安全保障とは、国家が経済的な手段を通じて自国の安全と安定を守る取り組みを指します。これまで安全保障といえば軍事的な防衛が中心でしたが、現在ではエネルギーや技術、資源の確保といった「経済の強さ」も国の安全を支える重要な要素となっています。
この考え方が注目される背景には、グローバル化による相互依存の拡大があります。サプライチェーンの分断や、重要技術の流出、特定国への過度な依存といったリスクが顕在化する中で、経済活動そのものが安全保障上の脅威となり得るようになりました。そのため、国は経済面からも自立性を高めることが求められています。
また、電力や通信といった国民生活に不可欠な重要インフラがサイバー攻撃を受け、社会機能が麻痺してしまう懸念も高まっています。経済のグローバル化が進んだ現代においては、こうした脅威への備えが不可欠です。
経済安全保障推進法とは?
経済活動と安全保障を一体的に捉え、経済面から国家の安全を確保するための枠組みを定めた法律です。正式名称を「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」といい、2022年5月に成立しました。
この法律が作られた背景には、先述したように国際情勢の不安定化があります。特定国への物資供給の依存や、重要インフラへのサイバー攻撃、先端技術の流出といった経済的な脅威が、国民生活を脅かす現実的なリスクとして認識されるようになりました。こうした脅威から国と国民を守るため、政府が安全保障上の観点から経済施策を一体的に進めるための枠組みを定めたものが、この経済安全保障推進法です。法律は、具体的な取り組みとして4つの柱で構成されています。
経済安全保障推進法の4つの柱
経済安全保障推進法では、国の安全を経済面から確保するために、具体的な取り組みとして以下の4つの柱を定めています。
- 重要物資の安定供給
- 基幹インフラの安定提供
- 先端技術の開発支援
- 特許出願の非公開
重要物資の安定供給
国民生活に不可欠でありながら、海外からの輸入に大きく依存している物資の安定供給を図る取り組みです。半導体や重要鉱物といった「特定重要物資」が、国際情勢の変化によって手に入らなくなる事態を防ぐことを目的としています。特定の国からの供給が途絶えると、国民生活や経済活動に深刻な影響を及ぼすおそれがあるため、この仕組みが設けられました。実際に、新型コロナウイルスの流行時には医療用品や電子部品が不足し、世界的なサプライチェーンの脆弱さが明らかになりました。
具体的な対策として、国内での生産体制を強化したり、特定の国以外からも調達できるよう供給元を多様化したりすることが挙げられます。また、物資を備蓄するといった企業の取り組みを国が支援する枠組みも整備されました。
企業にも、調達先の多様化や在庫管理の見直しなど、リスク分散の取り組みが求められています。これにより、サプライチェーン(供給網)を強靭にし、不測の事態にも耐えうる経済構造を構築していきます。
基幹インフラの安定提供
経済安全保障を支えるもうひとつの柱が、電力・通信・金融・交通などの基幹インフラを安定的に提供する体制の強化です。基幹インフラを担う事業者が導入する設備に、悪意のあるプログラムが仕込まれるリスクが生じると、サイバー攻撃などによって機能が停止してしまうおそれがあります。
そこで経済安全保障推進法では、インフラを担う重要な事業者が基幹となる設備を新たに導入・更新する際に、国が事前に審査する制度を設けました。審査を通じて、導入する設備やシステムが外部からの妨害行為に利用されるリスクがないかを確認します。これにより、インフラへの脅威を未然に防ぎ、国民生活の安全を確保することを目指しています。
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先端技術の開発支援
経済安全保障を強化するうえで欠かせないのが、先端技術の研究開発を支援する取り組みです。AIや宇宙、量子といった分野は、将来の産業や安全保障のあり方を大きく変える可能性を秘めています。こうした先端技術を海外に依存しすぎると、国際情勢の変化によっては技術が使えなくなったり、日本の技術的優位性が失われたりするリスクを抱えることになります。
そこで経済安全保障推進法では、国が特に重要と判断した技術を「特定重要技術」として指定し、研究開発を支援する枠組みを設けました。具体的には、政府と民間の研究者や企業が情報を共有し、開発目標などを話し合うための指定基金協議会が設置されます。国は必要な情報や資金を提供することで、日本の技術力を高め、国際社会における優位性を確保する狙いがあります。
特許出願の非公開
国の安全を脅かすおそれのある重要な発明が、特許出願を通じて公開されるのを防ぐための制度です。通常、出願された発明は一定期間後に公開されるのが原則となります。しかし、軍事転用やサイバー攻撃に利用されるおそれのある重要技術については、審査の結果、公開を一定期間制限できるようになりました。
具体的な仕組みとして、特許庁が出願内容を審査し、安全保障上重要と見なされる技術分野に該当する場合、内閣府でさらに詳しい審査が行われます。その結果、非公開にすべきと判断された発明は「保全対象」となり、出願内容の開示が制限されます。
企業への影響と対応ポイント
経済安全保障の強化は、多くの企業にとって無視できない経営課題となります。法律の4つの柱は、それぞれ企業活動に直接的または間接的な影響を及ぼす可能性があるためです。例えば、重要物資を扱う企業はサプライチェーンの見直しを迫られたり、電力や通信といったインフラ事業者には設備の導入時に国の審査が課されたりします。先端技術の研究開発や特許の取り扱いについても国の関与が強まるため、従来の事業戦略の変更が必要になるケースも想定されるでしょう。
このような状況下で企業が対応すべきポイントは、まず自社の事業と経済安全保障との関連性を正確に把握することです。その上で、取引先を含めたサプライチェーン全体のリスクを洗い出し、特定の国や地域への過度な依存がないか評価することが重要になります。
また、自社が保有する重要な技術情報の管理体制を強化したり、サイバー攻撃への備えを再点検したりすることも欠かせません。これらのリスクを全社的に管理する体制を構築することが、今後の事業継続において不可欠と言えるのです。
経済安全保障とサイバーセキュリティ
経済安全保障を考える上で、サイバーセキュリティは切り離せない重要な要素です。特に、経済安全保障推進法の柱の一つである「基幹インフラの安定提供」は、サイバー攻撃の脅威と密接に関わっています。
電力、通信、金融といった社会基盤がサイバー攻撃によって停止すれば、国民生活や経済活動は甚大な被害を受けます。そのため、基幹インフラの安定供給を守るためには、強固なサイバーセキュリティ対策が不可欠です。これはインフラを直接担う大企業だけの問題ではありません。サプライチェーンを構成する取引先の中小企業が攻撃の踏み台にされるケースも増えているため、すべての企業が当事者意識を持つ必要があります。
インフラ企業でなくても取り組むべき基本的な対策としては、以下のようなものが挙げられます。
- セキュリティポリシーの策定
組織全体で情報セキュリティに関するルールを定め、従業員の意識を高める。 - WAFなどの防御ツールの活用
Webアプリケーションへの不正な通信を防ぐWAFなどを導入し、外部からの攻撃を遮断する。 - 脆弱性診断の導入
自社のシステムに存在するセキュリティ上の弱点を定期的に検査し、攻撃を受ける前に対処する。
日々の業務の中で小さなリスクを見逃さず、継続的に防御体制を改善していくことが、経済安全保障を支える重要な要素となります。
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まとめ|経済安全保障を理解して必要な対応を取ろう
経済安全保障とは、国の安全を経済的な手段で確保する考え方であり、国際情勢が変化する現代においてその重要性は増しています。企業は、自社の事業が法律の4つの柱とどう関わるかを把握し、サプライチェーンのリスク評価や技術情報の管理体制強化といった対応を進める必要があります。
特にサイバー攻撃は、企業規模を問わず発生する深刻な脅威です。自社の情報資産を守るためには、セキュリティポリシーの策定やWAFの導入といった基本対策に加え、脆弱性診断によってシステムの弱点を把握し、継続的に改善していく姿勢が求められます。
自社のセキュリティリスクを効率的に把握したい場合は、AIを活用した高精度な自動脆弱性診断ツールであるAeyeScanが役立ちます。経済安全保障の観点からも、企業の信頼と事業継続を守るために、脆弱性診断の導入を検討してみてください。



