「クレジットカード情報が漏洩すると、どのような被害につながるの?」
「手間や時間をかけず、継続的にセキュリティ対策する方法は?」
クレジットカード情報の漏洩事件は後を絶たず、不正利用による被害額も増加傾向にあります。情報漏洩が起これば、経済的損失だけでなく、組織の信頼も大きく損なわれるおそれがあります。EC事業者は、より一層のセキュリティ対策が欠かせません。
しかし、対策の必要性は理解していても、具体的な方法がわからない方も多いでしょう。また、対策を実施したとしても一度だけでは不十分です。安全性を保つには、継続的に対策を実施する必要があります。
そこで本記事では、クレジットカード情報漏洩について以下の内容を解説します。
- 漏洩被害の現状
- 漏洩の原因・手口
- 漏洩した場合の対応方法
- 漏洩を防ぐための対策
本記事を読むことで、クレジットカード情報を安全に取り扱うためのポイントや、長期的に対策し続ける方法がわかります。「EMV 3-Dセキュア」や「セキュリティ・チェックリスト」など、実施が義務化される最新のセキュリティ対策も紹介するので、クレジットカード情報を取り扱っている組織の方はぜひご一読ください。

クレジットカード情報漏洩を防ぐためのセキュリティ対策
クレジットカード情報漏洩を防ぐには、複数のセキュリティ対策を講じることが重要です。
- 不正利用対策
- 情報保護対策
- ECサイト利用者への周知啓発の強化
EC事業者は常に最新のセキュリティ動向に注意を払い、対策を更新し続けることが求められます。本章では必ず対応しなければならないセキュリティ対策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
不正利用対策
クレジットカードの不正利用を防ぐ対策は、次の2つです。
- EC事業者に求められる4方策の実施
- EMV 3-Dセキュアの導入
すべてのEC事業者に義務化される対策もあるため、しっかり内容を把握して早めに対応しましょう。
EC事業者に求められる4方策の実施
EC事業者はクレジットカード情報の漏洩リスクや実際の被害の有無にかかわらず、不正利用対策の4つの方策を基本とした対策の導入が求められています。
| 方策 | 特徴 | |
| ① 本人認証 |
EMV 3-Dセキュア |
カード会員のデバイス情報を利用し、不正利用のリスクを判断する |
| 認証アシスト | 取引時の属性情報とカード会社の登録情報を照合し、本人かどうか確認する | |
|
② 券面認証 |
クレジットカードに記載されているセキュリティコードを入力し、カードの真正性を確認する | |
| ③ 属性・行動分析 (不正検知システム) |
過去の取引情報をもとにリスク評価し、不正取引を判定する | |
| ④ 配送先情報 | 不正配送先情報の蓄積により、商品の発送を事前に停止する | |
上記の方策は、各EC事業者が取り扱う商品やサービス、販売方法に応じて適切に選択し、実施する必要があります。特に、不正利用が頻繁に発生しているEC事業者においては、複数の対策を組み合わせた多面的なアプローチが不可欠です。
| 加盟店 | 導入すべき対策 |
| すべてのEC事業者 |
|
| 高リスク商材取扱加盟店 (デジタルコンテンツ・家電・電子マネー・チケット・宿泊予約サービスを商材として扱う加盟店) |
|
| 不正顕在化加盟店 (不正利用被害が多発している加盟店) |
|
※参考:クレジットカード・セキュリティガイドライン【5.0 版】|一般社団法人日本クレジット協会
EMV 3-Dセキュアの導入
4方策に挙げられているEMV 3-Dセキュアの導入は、経済産業省により2025年3月末を目処に義務化されることが発表されています。EMV 3-Dセキュアとは、オンラインショッピング時のクレジットカード情報の不正利用を防ぐための本人認証サービスです。
EMV 3-Dセキュアではカード利用者の決済情報を基に、リスクレベルを判断します。リスクが低い場合は追加認証なしで取引が完了しますが、中程度のリスクがある場合はパスワードなどの追加認証が要求されます。高リスクと判断された場合は、取引自体が拒否される仕組みです。
EMV 3-Dセキュアの導入により、クレジットカード情報の漏洩リスクが低減され、より安全なオンライン決済環境が実現されるでしょう。EC事業者は、義務化に向けて早期の対応が求められます。
情報保護対策
クレジットカードの情報漏洩を防ぐには、以下の情報保護対策が有効です。
- クレジットカード・セキュリティガイドラインの順守
- セキュリティ・チェックリストに基づく対策の実施
- 定期的な脆弱性診断の実施
最新のセキュリティ基準に適合しているかを定期的に確認し、必要に応じて対策を更新しましょう。
クレジットカード・セキュリティガイドラインの順守
クレジットカード・セキュリティガイドラインとは、クレジットカードの取引に関わる各事業者が実施すべきセキュリティ対策の指針をまとめたもので、一般社団法人日本クレジット協会が公表しています。ガイドラインの中で定められている対策は、大きく以下の3つに分類されます。
- 情報保護対策
- 対面取引における不正利用対策
- 非対面取引における不正利用対策
特にECサイトを運営している事業者の場合、「情報保護対策」と「非対面取引における不正利用対策」の2つがメインとなります。ガイドラインを入念にチェックして対策を検討しましょう。
※参考:クレジットカード・セキュリティガイドライン【5.0 版】|一般社団法人日本クレジット協会
セキュリティ・チェックリストに基づく対策の実施
ECサイト事業者が新たに決済代行会社と契約を結ぶ際には、「セキュリティ・チェックリストに基づく対策措置状況申告書」の提出が求められます。このチェックリストは、ECサイト事業者で適切なセキュリティ対策が実施されているかを確認するためのものです。
チェックリストにはアクセス制御や脆弱性診断など、顧客情報の漏洩を防ぐために実施すべき対策項目が記載されています。すべての項目を満たすことでECサイトのセキュリティが強化され、クレジットカードの情報漏洩リスクを低減できます。
定期的な脆弱性診断の実施
定期的な脆弱性診断の実施は、セキュリティ・チェックリストに記載されているほど重要なセキュリティ対策です。診断を実施することで、攻撃の入口になる可能性がある脆弱性を発見できます。
具体的には、ECサイトにおける脆弱性の有無と危険度をチェックし、危険度の評価と対策の提示を行います。ECサイトの脆弱性を利用したサイバー攻撃による不正アクセスを防ぐことにつながるため、クレジットカード情報の漏洩予防に有効です。
さらに、脆弱性診断ツールを導入すれば、自社内で定期的に脆弱性の有無をチェックできます。継続的に診断を行うことで、ECサイトの安全性を高いレベルで保つことができるでしょう。
経済産業省によるクレジットカード決済システムのセキュリティ対策強化検討会報告書では、脆弱性診断を含めたセキュリティ対策の必須化を、2024年度末までにクレジットカード・セキュリティガイドラインに記載することが求められています。定期的な脆弱性診断の実施が、今後ますます重要になると考えられます。
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脆弱性診断と組み合わせたいWAF導入による多層防御
クレジットカード情報を狙った攻撃の多くは、Webアプリケーションの脆弱性を悪用して行われます。定期的な脆弱性診断で問題を発見・修正することは重要ですが、修正作業には時間がかかる場合も。そこで有効なのがWAFの導入です。脆弱性の修正パッチが適用されるまでの間、攻撃からECサイトを守る「時間稼ぎ」として機能するため、脆弱性診断との組み合わせで効果的な多層防御を実現できます。詳しくは、「WAFとは|どこまで守れる?セキュリティ対策の効果をわかりやすく解説」で解説していますので、ぜひご確認ください。
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開発・セキュリティ・運用チームの連携を強化するDevSecOps
クレジットカードセキュリティ対策を継続的かつ効果的に実施するためには、技術的な対策だけでなく、開発プロセス全体でセキュリティを意識した組織体制の構築が重要です。近年注目されているDevSecOpsでは、設計・開発・テスト・運用のすべての工程でセキュリティを組み込むことで、セキュリティレベルを維持しながら事業スピードも向上させることが可能です。DevSecOps実現のための具体的な方法や組織変革のポイントについては、「DevSecOpsとは|組織全体で取り組むべき課題や実現方法を解説」にて解説していますので、併せてご確認ください。
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ECサイト利用者への周知啓発の強化
利用者がマルウェアやフィッシングによる被害にあわないためにも、周知啓発の強化は有効な対策の一つです。マルウェアやフィッシングによるクレジットカード情報の窃取は、偽のメールや偽のWebサイトを使うため、ECサイトそのものへのセキュリティ対策を強化するだけでは防げません。
自社からのメールやWebサイトを騙ったフィッシングが確認された場合、利用者へ迅速に周知と注意喚起を行う必要があります。
クレジットカードセキュリティを支える2つの技術基盤
クレジットカード情報を狙った攻撃の多くは、ECサイトやオンライン決済システムの技術的脆弱性を悪用して行われます。これらの攻撃から顧客情報を守るためには、決済システムを構成する主要な技術基盤についてのセキュリティ対策を徹底することが重要です。特に、決済に必要なAPIセキュリティと、ECサイト全体のアプリケーションセキュリティの2つの観点から、包括的な対策を講じる必要があります。
決済システムの生命線:APIセキュリティ対策
クレジットカード決済においてAPIは重要な役割を果たしており、決済代行会社やカード会社との通信、EMV 3-Dセキュアの認証プロセス、不正検知システムとの連携など、すべてAPI経由で実行されます。そのため、APIのセキュリティが損なわれると、クレジットカード情報漏洩の直接的な原因となる可能性があります。
APIセキュリティにおける主要な脅威は、脆弱性を突いた攻撃による情報漏洩です。特にSQLインジェクションでは、APIに不正なクエリを送信することでデータベースから決済情報を窃取される危険性があり、クロスサイトスクリプティング(XSS)では、APIレスポンスに不正なスクリプトが混入し、Webアプリケーション側で実行されることで情報が漏洩する可能性があります。また、認証不備による不正アクセスでは、APIキーやトークンの盗取により第三者がAPI経由で決済システムに侵入し、機密情報の閲覧や決済データの改ざんが行われるリスクがあります。
APIセキュリティの強化には、通信の暗号化(HTTPS/TLS)の徹底、スキーマ検証による無効なリクエストのブロック、APIトークンによる適切な認証・認可の実装、レート制限による過剰リクエストの防止が重要です。特に決済APIでは、OWASP API Security Top10で定義されるリスク項目を考慮した脆弱性診断を定期的に実施し、OAuth 2.0や、その拡張である金融業界向けのFAPIといった高度な認証規格の導入も検討すべきです。
実践のチェックポイント
- 決済API通信の完全暗号化:すべての決済関連通信でHTTPS/TLSを強制実装
- APIトークン管理:短期間で期限切れとなるトークンの実装、権限の最小化
- 監視体制:API Gatewayを活用したリアルタイム監視とアクセスログの取得
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ECサイト全体を守る:アプリケーションセキュリティの重要性
クレジットカード決済を扱うECサイトでは、Webアプリケーション全体のセキュリティが情報漏洩を防ぐ重要な防御層の一つとなります。OWASP Top 10で示されているアプリケーションの脆弱性は、クレジットカード情報を狙った攻撃の主要な入り口となっているため、技術・組織・人材の3つの要素から包括的な対策を講じることが必要です。
技術的アプローチとしては、セキュアコーディングによる脅威を想定した設計・構築が基本となります。特にクレジットカード情報を扱うアプリケーションでは、SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティング(XSS)、アクセス制御の不備などの脆弱性を事前に防ぐことが重要です。さらに、ペネトレーションテスト、動的アプリケーションセキュリティテスト(DAST)、静的アプリケーションセキュリティテスト(SAST)などの多角的なテスト手法を組み合わせて実施し、WAFによる攻撃防御と脆弱性診断による継続的なリスク評価を行います。
組織的アプローチでは、情報セキュリティマネジメント体制の確立により、部門を横断したセキュリティ基準の統一と継続的な改善を図ります。また、CSIRTを中心としたインシデント対応体制を構築することで、発生時の初動対応を迅速化し、被害の最小化を図ることができます。近年注目されているDevSecOpsの手法を導入することで、開発プロセス全体でセキュリティを意識した組織的な対策強化も可能です。
実践のチェックポイント
- セキュアコーディング実践:OWASP Top 10対応の開発標準化、定期的なコードレビュー実施
- 多層防御体制:WAF導入、定期的な脆弱性診断、インシデント対応計画の策定
- 組織的取り組み:開発・セキュリティ・運用チームの連携強化、定期的なセキュリティ教育実施
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まとめ|クレジットカード情報漏洩を防ぐには脆弱性診断が重要
クレジットカード情報の漏洩は、事業者にとって大きな打撃となります。事故対応や損害賠償にともなう経済的被害だけではなく、組織としての社会的信頼を失ってしまうおそれがあるため、きちんとセキュリティ対策を実施しましょう。
ECサイトを運営する事業者がクレジットカード情報の漏洩を防ぐには、以下の対策が有効です。
- 不正利用対策の4方策の実施
- EMV 3-Dセキュアの導入
- クレジットカード・セキュリティガイドラインの順守
- セキュリティ・チェックリストに基づく対策の実施
- 定期的な脆弱性診断の実施
- 利用者への周知啓発の強化
なかでも「脆弱性診断」の実施は、ECサイトに潜むリスクの検知・修正に役立ちます。定期的に診断することで情報漏洩を未然に防いだり、事故が起きるリスクを低減できたりするでしょう。脆弱性診断ツールを導入すれば自動化できるため、長期的に対策し続けられるメリットもあります。
ECサイト全体のセキュリティを見直し、クレジットカード情報保護に努めましょう。






